陸上養殖のかけ流し式とは?特徴やメリット・デメリットを徹底解説
近年、海面養殖に代わる新たな生産方法として注目を集めているのが陸上養殖です。なかでも、比較的シンプルな構造で導入しやすいのが「かけ流し式」と呼ばれる方式です。
常に新しい水を取り込みながら養殖を行うため、水質を保ちやすい一方で、排水処理や水質調整の難しさなどの課題もあります。
この記事では、かけ流し式陸上養殖の特徴やメリット・デメリット、実際の導入事例まで詳しく解説します。
陸上養殖の導入を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
陸上養殖とは
陸上養殖は、海ではなく陸上に設けた水槽やプールなどの施設で魚や貝を育てる養殖方法です。
水温や酸素濃度、水質を人工的にコントロールすることで、生育に最適な環境を保ちながら安全で新鮮な魚介類を生産できます。
海面養殖のように天候や潮の流れに影響されにくく、計画的に供給できるのが大きな利点です。
陸上養殖の仕組みや特徴をさらに知りたい方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。
かけ流し式陸上養殖の特徴
陸上養殖には、かけ流し式・閉鎖循環式・半閉鎖循環式の3つの方式があります。
かけ流し式は、海や河川などの水をポンプで水槽に取り入れ、使用後の飼育水をそのまま外へ排出するシンプルな仕組みです。
濾過装置や殺菌装置を用いて水を再利用する閉鎖循環式とは異なり、水槽と給排水用ポンプがあれば運用できるのが特徴です。設備コストを抑えながらも安定した水質環境を保てます。
かけ流し式陸上養殖のメリット

かけ流し式陸上養殖は、新鮮な水を供給しながら魚を育てるため、快適な環境を整えやすいのが大きな強みです。
設備の構造がシンプルなので導入しやすく、日々の管理や運用の手間を減らせます。ここでは、かけ流し式陸上養殖を導入するメリットを詳しく紹介します。
設備導入コストが比較的低い
かけ流し式陸上養殖は、設備導入にかかるコストを抑えやすいのがメリットです。基本的に必要なのは、水槽と給排水ポンプといった最低限の機材だけで、濾過装置や殺菌装置などは必要ありません。
そのため、初期投資を抑えてスタートでき、小規模な試験養殖や新規参入にも向いています。
また、設置やメンテナンスの負担が少なく、運用コストを抑えられるのも魅力のひとつです。
水質が安定しやすい
かけ流し式陸上養殖では、海や川の水を入れ替えながら使用した飼育水を排出するため、水槽内を清潔に保ちやすいのが特徴です。
水の流れが常にあるため、アンモニアや有機物が蓄積しにくく、魚にとって快適で健全な飼育環境を維持できます。
このような安定した水質管理は、魚のストレス軽減や成長の均一化につながり、結果として生産効率の向上にも寄与します。
かけ流し式陸上養殖のデメリット

かけ流し式陸上養殖は、自然の水を利用して水質を保ちやすい反面、環境や管理面で注意すべき課題もあります。
特に、排水による周辺環境への影響や、外部の気候や水質変化に左右されやすい点は大きな懸念点です。
これらの要素を十分に理解し、適切な管理体制を整えることで、より安定した運営が可能です。
ここでは、かけ流し式陸上養殖を導入する際に知っておきたい主なデメリットについて解説します。
環境への排水リスク
かけ流し式陸上養殖では、多くの飼育水を外に流す仕組みなので、周囲の環境に悪影響を及ぼす恐れがあります。
餌の食べ残しや排泄物などが含まれた水を排出すると、海や河川の水質を悪化させる原因になるため、注意が必要です。
自然の水を活用できる点は魅力ですが、同時に環境への配慮や排水処理の工夫が欠かせません。
水質の調整が難しい
かけ流し式陸上養殖は自然の水を取り入れるため、外部の環境変化に影響を受けやすいという課題があります。
季節や天候によって水温や塩分濃度、酸素量が変化するため、理想的な水質を維持するのが難しい場合もあります。
魚介類の健康を保つには、こうした変化に対応できる管理体制が必要です。水質の変動が大きいと、成長の遅れや病気の発生につながるリスクがあります。
かけ流し式陸上養殖の実際の導入事例

かけ流し式陸上養殖は、国内各地で導入が進んでおり、地域の環境や水資源を活かした多様な取り組みが行われています。
清らかな湧水を利用した冷水魚の養殖や、海水を使ったヒラメ・クルマエビの生産など、各地で成功事例が見られます。
かけ流し方式は、国内で最も多く採用されている養殖方法です。ここでは、かけ流し式陸上養殖の国内における導入事例と、その現状について紹介します。
国内の成功事例
大分県ではヒラメの陸上養殖が行われ、熊本県の天草地域ではクルマエビのほか、淡水環境を活かしたニジマスやウナギの養殖も盛んです。
一方、長野県の八千穂漁業では南佐久地域を流れる大石川の清らかな水を利用し、かけ流し方式でニジマス・イワナ・ヤマメ・信州サーモンなど多様な魚種を育成しています。
清流の恵みと徹底した衛生管理により、品質の高い渓流魚を出荷しています。
かけ流し式陸上養殖の現状
水産庁が発表した令和4年度の調査によると、陸上養殖の中で最も普及しているのがかけ流し式です。
地下水を使用しない一般的なかけ流し式の採用率は全体の約52% を占めており、陸上養殖の主流となっています。
さらに、地下水を利用したかけ流し式も含めると約63%に達し、多くの事業者がこの方法を選択していることがわかります。
また、魚種別に見るとヒラメ・トラフグ・クルマエビといった主要魚種においても、かけ流し方式の採用率はそれぞれ68%・76%・50%と高い水準を維持している状況です。
かけ流し式は国内の陸上養殖における中心的な方式であり、今後も安定した生産方法として注目されています。
かけ流し式と閉鎖循環式の比較表

かけ流し式陸上養殖は、自然の水を活用できるため、導入しやすいのが大きな魅力です。設備コストを抑えながらも安定した水質を保てるため、国内で多くの養殖業者に選ばれてます。
一方で、閉鎖循環式は設備面で優れているものの、初期費用や維持コストが高くなる傾向があります。それぞれの方式の違いは、以下のとおりです。
| 項目 | かけ流し式 | 閉鎖循環式 |
| 必要な設備 | 水槽・給排水ポンプ等 | 循環ポンプ・濾過装置・殺菌装置等 |
| 設置場所の条件 | 海や川の水を引いてこられる場所 | 制限がなく、内陸部でも可能 |
| 環境への影響 | 食べ残しや排泄物を含む汚水を排出するため、水質を悪化させる可能性があり | 海域への影響はなし |
| コスト | 導入費用が低い | 温度調節や濾過装置など、必要な装置が多いため、費用がかかる |
| 衛生面 | 外部に水を排出するため、アンモニアや有機物が蓄積しにくい | 装置に汚れが溜まりやすいため、清掃や定期的なメンテナンスが必要 |
まとめ
かけ流し式陸上養殖は、自然の水を活かして効率的に運用できる仕組みで、導入コストを抑えつつ安定した水質環境を維持できます。
ヒラメやクルマエビなど多くの魚種で採用され、国内では主流の方式となっています。環境や条件に合わせて柔軟に導入できる適応性の高さも魅力です。
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